第9章 風柱と那田蜘蛛山
普通の人間ならば持ち上げる事すら難儀な量の蕎麦も、日々鍛錬を行い、全集中常中をこなせる2人にかかれば難なく持ち運びも出来てしまう。
すれ違う人々の視線を一身に集めながら2人は家路を急ぐが、先ほどの約束を忘れていない更紗は歩を進めつつ杏寿郎にピタリと寄り添った。
「どうした?重いならば俺が持つぞ!」
「あ、そうではなくて……歩きながらで見辛いかもしれませんが、私の瞳をよく見てくださいますか?」
周りからすれば2人の様子は不思議だがそれを気にする杏寿郎ではないので、更紗に言われるまま赫い瞳をのぞき込む。
「少し力を使います、よく見ていてくださいね?」
「え?力?」
その疑問が解決される前に蕎麦を抱える更紗の手から、近くで見ない事には分からないほどの白銀の粒子がフワリと舞った。
それと同時にのぞき込んでいる瞳に僅かな変化が訪れ、杏寿郎は呼吸が止まってしまうほど驚きを示す。
「瞳孔の色が……濃くなっている?体に異常は?!もう見たから早くやめなさい!」
まるで子供を𠮟りつけるような言葉で後半は声も大きく更紗は肩をびくつかせて慌てて力を抑え込んだ。