第9章 風柱と那田蜘蛛山
ピタリと更紗の指にはまると、杏寿郎はホッと安堵のため息をこぼしその手を握りながら立ち上がった。
「これは俺が更紗に求婚し、受けてもらったと言う証のような物だと思ってくれ」
杏寿郎の言葉と指に伝わるひんやりとした指輪の感覚に現実味が帯びてくると共に、言いようのない嬉しさが更紗の中に込み上げ涙が滲んでくる。
「すごく嬉しく思います……ですが、このような立派な物いただいてよろしいのでしょうか?私……」
「更紗」
更紗の言葉を遮り、小さな唇に親指を当てる。
「俺からの贈り物は笑顔で受け取ってくれ。特にこの指輪に限っては、糸を使って君の指の大きさを調べた意味がなくなるからな!」
キョトン。
「糸?」
「あぁ!糸だ!布に包んで持って行ったのでな、危うく布から出ていた糸と間違うところだった」
つまり、糸を更紗の指に巻き付け大きさを計り、それを無くさないようにと布で包むも、布から出た糸と大事に持って来た糸を間違えかけたと……
しかも指輪を置いている店となるとそれなりの格式なのだが、そこで布に包んだ糸を見せ
『この大きさの指輪を拝見させてもらいたいのだが!』
と言ったに違いない。
店の者はよく対応してくれたものだ。