第9章 風柱と那田蜘蛛山
重ね合わされた大きな手は僅かに震えていて、そんな状態の杏寿郎を初めて見た更紗の胸は罪悪感で溢れ返り決心が鈍ってしまいそうだったが
「杏寿郎君……私」
”やっぱり、やめておきます”
とは口が裂けても言えなかった。
杏寿郎を心配させると分かっていてもなお、貫き決意したことなのだ。
そしてここで引いてしまえば、杏寿郎が更に気に病んでしまうと更紗は理解しているから。
「よければ理由を聞かせてくれ。君がどう思い決意したのか……分かっていると思うが、血を媒体にして力を使えば君の失われた血は戻らない。一歩間違えれば死につながる力なのだ。それでも尚それをこれから先、使いたいと思った理由が知りたい」
いつもは快活で見ているだけで元気がもらえる炎のような瞳が不安げに揺れている。
そんな瞳を真っすぐ、逸らすことなく更紗は見つめて問いの答えを話す。
「私はもう大切な人を失いたくありません。だからといって自分の命と引き換えに誰かを助けるだなんて、おこがましい考えもないのです。お母さんが言った通り、残す方も残される方も辛いと……今なら分かりますので」