第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗の言葉に槇寿郎は完全に伸されてしまった。
つい数秒前まで泣きそうな真剣な眼差しであったにも関わらず、今はすっかり娘を溺愛するような表情に変化している。
「杏寿郎君とも、これからたくさんお話しして、たまにお散歩したり一緒にご飯食べたりして、お爺さん、お婆さんになってからも仲良く過ごしたいので命を軽んじることはしません!」
杏寿郎撃沈。
更紗はいたって真面目な顔をして言っているが、男だけの生活を長年続けてきた2人には刺激が強かったようだ。
「父上、お気を確かに。この子はこれが平常運転です……慣れなくては身が持ちません」
「お前もだろう……それにしても、息子もいいが娘もいいものだ」
何がどうなってこのような展開になっているのか更紗は分かっていないので、少し目を伏せてから今まで聞きたくとも憚られていた事を願ってみることにした。
「お2人にお願いがございます」
「「なんだ?」」
もう2人とも目尻も眉も下がりきっており、なんでもきいてやるという顔だ。
「よろしければ、杏寿郎さんのお母様……瑠火様のお話を聞かせていただきたいのです。時間がある時で構いませんので……今日、私の母が瑠火様と似た言葉を仰られていたと聞いて、どのような方なのか知りたい……と思いました」