第9章 風柱と那田蜘蛛山
「父上、戻りました。失礼してよろしい」
バンッ
と杏寿郎が言い終わる前に襖が勢いよく内側から開かれた。
もちろん、槇寿郎の手によってである。
顔が険しいので怒っているように見えるが、頬がピクピクと痙攣しているので敢えてそのような表情をしているように見える。
「お前達、よくやった!」
呆気にとられる2人に、槇寿郎は跪き勢いよく大きな胸に抱き寄せた。
「ち、父上?」
「お前達は普通に生活を営んでいる方々からすれば特殊な環境、状況での婚約だ。ご両親からすれば11年間生死不明だった愛娘と再会出来たかと思えば、鬼殺隊と言う明日の命も知れぬ組織に加わっており、そこで剣士の上に立つ柱のお前と結婚したいといきなり言われるのだ。普通ならば受け入れがたいだろう」
槇寿郎は2人を解放し、交互に見遣って泣きそうな表情で続ける。
「俺がご両親の立場ならば、全てに対して受け入れられないだろう……2人とも、更紗のご両親に感謝しなくてはいけないぞ。特に杏寿郎、お前はたった1人きりの愛娘を任されたのだ、何が何でも守り抜け。これから先、任務で死ぬことも死なせることもあってはならん」