第3章 出会い
杏寿郎に黒文字を渡され受け取ると、そっと羊羹を切り、口へとゆっくり運んでいく。
小さな1切れを口に入れた途端、ゾワゾワと鳥肌を立てた。
「わぁ!!甘い!!美味しいです!」
頬を桃色に染め、ウットリと目を潤ませている。
槇寿郎の前で見せた幼子のような笑顔に続き、初めて見せる年相応の可愛らしい女の子の笑顔。
その笑顔を見て杏寿郎は胸に手を当てる。
(何だ!?いきなり動悸か!?ふむ……柱として不甲斐ない!明日から更に鍛錬を増やさなければな!!)
自分の胸に手を当て何かしら胸中で決意している兄を、千寿郎はドキドキと胸を高鳴らせて遠慮気味に見つめている。
「杏寿郎さん、千寿郎さん、羊羹というのはこんなにも美味しいものだったのですね!……これが幸せな気持ちっていうのかもしれません」
最後の言葉をハニカミながら言うものだから、杏寿郎の心臓は更に速度を速めた。
(これは何だ!?鍛錬が足りん!!)
杏寿郎はいきなり無言で立ち上がると、羽織と隊服の上着を素早く脱ぎ捨て縁側から庭へと飛び降りる。
「おぉぉぉぉぉおお!!不甲斐ないー!!」
と雄叫びを上げながら、2人の視界から消え去って行った。