第9章 風柱と那田蜘蛛山
部屋の前に到着した更紗はビクビクと中の様子を伺うように、襖をほんの少し開けて中を覗いている。
傍から見れば不信極まりない動作も、天元からすれば面白さ以外何も感じていないようで笑いをかみ殺している。
「姫さん、大丈夫だって!煉獄はそんな事で怒りゃあしねぇよ」
「い、いえ。そうなのですが、お父さんもいますしもしかすると……」
「お帰り、更紗。君にはいつも驚かされる」
「ひゃいっ!杏寿郎君、すみません」
身を縮こませる更紗に苦笑しながら、杏寿郎は部屋から出てきて後手に襖を閉める。
「宇髄、迷惑ついでに少し失礼する!」
天元の返答を待つことなく、杏寿郎は更紗をまるで自身の気持ちを落ち着かせるように抱きしめる。
「お前、俺の前だと遠慮もクソもねぇな。俺の恰好に何の反応もなしかよ」
呆れる天元に杏寿郎は顔を向けてようやくその姿をきちんと確認する。
「婚姻の許可をいただけるまで緊張の連続だったのでな、癒しが必要だ。で、君のその格好は一体どうした?まるで準備していたようだな!」
「許可もらえてよかったじゃねぇか!今夜は派手に祝杯だな!ちなみにこの格好は煉獄の言う通り準備してた!備えあればなんとやらってヤツだ!てかそろそろ姫さん離して中入った方がよくね?」