第9章 風柱と那田蜘蛛山
そんなやり取りをしている頃、更紗は天元がいる部屋の前で中に入っていいものか今更ながら悩んでいた。
(どうしましょう?!思わず浮かれて来てしまいましたが、天元君は何もご用意されていないですよね?!……やっぱりご迷惑になりますし、ここは引き返して……)
「姫さん?」
「うひゃい!」
「うひゃい??ブハッ!悪ぃ、派手に驚かせちまったか?んで、もしかして俺を呼びに来た?」
更紗が我に返って引き返そうと踵を返しかけたところで障子がいきなり開き、中から天元がひょっこりと顔を出した。
「い、いえ!……はい、そうなのですが……いきなりお連れするのもご迷惑かと思いまして、今から引き返そうと」
「姫さん、姫さん。俺の恰好見てみ?」
しょんぼり顔の更紗に晴れ晴れとした笑顔を向けながら、天元は更紗の前へ躍り出た。
その格好に更紗は目を丸くして、体と顔を交互に見やる。
それもそのはず、袴ではないものの、浴衣ではなく着物をきちんと着こなし羽織まで羽織っているのだから。
「天元君、その格好は?」
「いやぁ、礼儀正しい姫さんの両親だからな。もしかすると呼ばれるかもしれねぇから準備してたわけ!想定の範囲内だから、姫さんが落ち込むことじゃねぇよ!行こうぜー」
更紗からすれば想定外の出来事だが、そこまで準備してくれていたことに恐縮するとともに感謝が沸いてくる。
「天元君、ありがとうございます」
「え?何が?俺が呼ばれるの派手に楽しみにしてただけなんだけど?」
こうして無事に?3人が待つ部屋へと向かっていった。