第9章 風柱と那田蜘蛛山
涼平と杏寿郎の声は2人には届かず、更紗は紗那に促されて足早に部屋を後にした。
「……すみません。私にはまだ更紗さんを止められません」
「いや……こちらこそ妻を止められず……あ、更紗の呼び方いつも通りでいいよ。あの子もその方が良いだろうし。僕達の事はお義父さん、お義母さんとよんでくれ」
年上の、しかも許嫁の両親に対してそのような言葉遣いで構わないのかと杏寿郎は戸惑うが、紗那の言葉に促された。
「そうよ、更紗と結婚すれば家族なんだから。私達もその方が気楽でいいわ。ぜひそうしてくれないかしら?」
トンデモ少女の母が期待のこもったニコニコ笑顔を杏寿郎に向けるので、それに従うことにした。
「はい、これからよろしくお願いします。お義父さん、お義母さん」
杏寿郎の呼び方に満足げに頷いた後、涼平は手招きして紗那を近くに呼び寄せ、更紗と瓜二つの顔の頬をギュッと摘んだ。
「いひゃい!!ーー!!何するの?!」
「宇髄さんは僕達と会う予定はしていなかったんだ。いきなり呼んでしまったらご迷惑だろう?」
「あっ……すみません」
涼平にしかられ、項垂れる紗那の仕草や表情が更紗にそっくりで杏寿郎は思わず吹き出しそうになった。