第9章 風柱と那田蜘蛛山
紗那の言葉に思わず杏寿郎は目を伏せてしまう。
11年もの間、それも可愛い盛りの娘の成長を見守ることすら奪われてしまったのだ。
杏寿郎は子供どころか家庭を持ったことすらないが、考えただけで胸が痛む。
例えば今から11年間、更紗を奪われたらと思うと耐えられる自信は杏寿郎にはない。
「お母さん」
言葉を失ってしまった杏寿郎の代わりに、更紗が紗那の手を握り言葉をかけた。
「たくさん心配かける親不孝な娘でごめんね。こんな私だけど、私はお母さんもお父さんにも何で助けてくれなかったの?なんて思ったことはないの。ずっとずっと大好きで、それは昔も今も変わらない。そして私は今、すごく幸せだよ。だから申し訳ないとか自分を責めないで?」
更紗の言葉に、紗那は娘と瓜二つの顔を歪ませて泣き崩れた。
涼平も紗那の背中を擦ってやっているが、ポロポロと床に涙を落としている。
「お父さん、お母さん。私は杏寿郎君に出会えてそばにいて貰えて、愛されてすごく幸せです。だから」
「更紗?!」
相変わらずのトンデモ少女、更紗はなぜ言葉を遮られたのか分からずキョトンと杏寿郎を見つめている。