第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗に促され両親が奥に座り、更紗の前には母親、杏寿郎の前には父親となった。
「お父さん、お母さん、こちらの方が私を助けてくださった、煉獄杏寿郎さん。命の恩人だよ」
いささかこんな場での大きな紹介に杏寿郎は内心冷や汗をかくが、更紗の両親の前で更紗を窘める事は気が引けてそのまま訂正しない道を選んだ。
「お初にお目にかかります。ご紹介に預かりました、鬼殺隊 炎柱を務めさせていただいております、煉獄杏寿郎と申します」
まるでお館様に話すようなきちんとした話し方に、更紗は杏寿郎が本気で両親と向き合ってくれていると感じ、驚きの中にとてつもない嬉しさと感謝の念が沸いてくる。
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私は更紗の父親の月神涼平、母親で妻の紗那です。娘の件、この度の件、なんとお礼を申したらいいやら……」
父親、涼平の言葉に杏寿郎は首を左右に振った。
「いえ、更紗さんは自分で生への道を切り開き、この場を設けられたのも、彼女のこれまでの生き様が多くの人の心を動かしたからです。私は少しばかり手を貸しただけにすぎません」