第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗は小さく頷き、一歩部屋の中へ足を踏み入れる。
「お父さん、お母さん……ただいま」
小さな小さな声だったが2人にはしっかりその声は届き、腰を上げて更紗に駆け寄り、華奢な体を抱きしめた。
「更紗!本当に更紗だ!お父さんだ、分かるか?!」
「更紗、ごめんね。お母さんがそばにいてあげていたら!生きていてくれて本当に良かった」
両親に抱きしめられ、顔をくしゃくしゃにして涙を流している更紗の姿を見て、杏寿郎も思わず目の奥が熱くなる。
(この子はご両親から本当に多くの愛情を一身に受けて育ったのだな。会わせてやれてよかった)
そう思いながらしばらく親子の再会を温かく見守っていると、少し経った頃に両親の元から更紗が歩み寄ってきて杏寿郎の手を両手で握りしめた。
「杏寿郎君、ご紹介させてください」
「もういいのか?俺はまだ待っていても構わないぞ?」
だが更紗は首を左右に振って握った手を両親のいる方へといざなっていく。
「こうして両親に会えたのも杏寿郎君のおかげ様です。何よりも優先させていただきたいのです」
杏寿郎にとって心満たされる言葉を発する更紗に涙が出そうになるが、それを必死に抑えて歩みを進めた。