第9章 風柱と那田蜘蛛山
お館様にお会いする時、任務の時に隊服を着用するというのはしていたが、私用だとそう言ったその場にふさわしい着物を選ぶという行為は自分でしたことがないので、常識人な杏寿郎の存在は更紗にとってとてもありがたい。
「お心遣いありがとうございます。今度、何かお礼をさせてくださいね!拒否はなしでお願いします」
キリッとした顔で先手を打たれ、杏寿郎は面食らっているが更紗の気持ちを有難く受けることにした。
「拒否権はなしか!それならば楽しみにしておく!」
杏寿郎は更紗に笑顔を向けると、立ち上がって部屋の隅に置かれていた風呂敷に包まれている物を手に取り、更紗の前へ戻って跪いてそれを手渡す。
「俺は先に顔を洗って別室で着替えを済ませる。君もこれを着て準備を整えておいてくれ。その後、共に朝餉をいただこう」
更紗は手渡された着物一式をそっと受け取り、フワリと笑って頷く。
「はい。すぐに準備を済ませます」
「急がなくていい、では後ほどな」
そう言って更紗の頭を一撫でして杏寿郎は部屋を後にした。
こうして滞りなく準備は着々と進んでいったが……