第9章 風柱と那田蜘蛛山
「私でよろしければいつでも大丈夫です!私も杏寿郎君の肌に触れると幸せを感じれます」
「更紗でないと意味がない、あぁ……幸せだ。このまま幸せの余韻に浸るも悪くないが、そろそろ準備を行おう。俺も今日は袴を着るので余裕を持って用意がしたい」
今日は更紗と杏寿郎にとって、待ち遠しくも緊張が伴う日なのだ。
昼過ぎには隠にいざなわれて更紗の両親が、この藤の花の家紋の家にやって来る日である。
「杏寿郎君、袴を着用されるのですか?」
今まで数か月、着流し姿や隊服姿の杏寿郎しか見たことのない更紗は目を輝かせている。
「さすがに君のご両親に挨拶をするのに着流しでは失礼にあたるだろう。更紗の新しい着物も届けてもらっているから、それを着るといい。羽織と同じ柄で申し訳ないが……」
申し訳なさそうに眉を下げているが更紗にとっては、わざわざ更紗の両親と会うために袴を着用し、自分にまで新しい着物を用意してくれるなんて頭が下がる思いしかしない。
「全てにおいて感謝しかございません!でも、どうして新しい着物を?杏寿郎君からいただいた着物がありますよ?」
「そう言ってもらえるなら安心した。着物に関しては、せっかく11年ぶりにご両親に再会できるのだ。暗い色よりも明るい色でお出迎えした方がいいかと思ってな」