第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗から杏寿郎への胸元の口づけから始まった杏寿郎の熱がおさめられ、その過程で更紗が意識を手放してから一刻ほどたった。
ようやく外は明るくなり部屋の中にも穏やかな日差しが降り注いで、更紗の瞼を優しく刺激する。
「ん……私、何を……あれ……?!」
慌てて自分の体を確認するも、綺麗に浴衣は着付けられており乱れは一切見当たらなかった。
「おはよう、更紗」
「おっ……ひゃようございます!杏寿郎君!」
羞恥に頭の中を支配されていた更紗は目の前で横になっている杏寿郎の存在にさえ気づかず、いきなりの挨拶に盛大に噛んだ挨拶しか返せなかった。
「ハハッ、おっひゃよう。辛いところはないか?」
「辛いところは……全くございません。あの、もしかして着付けてくださったり……その他諸々は杏寿郎君がしてくださったのでしょうか?」
体の何処にも不快感が全くないなど口が裂けても言えず、かなり言葉を濁して確認すると杏寿郎は太陽のような溌溂とした笑顔で大きく頷いた。
「うむ!そのままだとあまりに」
「あぁ!!ありがとうございます!本当にご迷惑をおかけしましたが、ありがとうございます!」
危うく痴態を晒されそうになるのを必死に声で制すも、そんな反応が返ってくると分かっていたように杏寿郎が目を細めて笑うので、更紗は掛け布団の中にゆっくり沈んで行ってしまった。