第9章 風柱と那田蜘蛛山
翌朝……と言うより、まだ日が昇りきらない時間に更紗は目を覚ました。
時間的には起きていてもおかしくないが、冬も深まるこの時期はまだ部屋の中はもちろん、外も暗いままだ。
朝方は特に冷え込むが、今は杏寿郎がしっかり抱きかかえたまま眠っているので心地よい温かさである。
(緊張して目が覚めてしまいました……お父さんとお母さんと話せる時間は僅か……や、やっぱり杏寿郎君と婚約したことも話さなくては!11年ぶりに会った娘が婚約していたら……間違いなく驚きます!)
心の中で色々考えながら、その婚約者を起こさないようこっそり顔を上にあげて寝顔をのぞき込む。
やはり前髪は額にかかっており、眉も下がり気味で少し幼く見える。
(可愛らしいです!いつも私を愛らしいと言ってくださる心境はこんな感じでしょうか?いつまでも見ていたい!)
いつもと逆で、今は更紗が杏寿郎の姿に身もだえている。
そんな胸中のまま視線を元に戻すと、浴衣のはだけた襟元から鍛えられた胸板が見えるものだから、一気に顔は赤くなり体温が上昇してしまう。
うっすらと古傷もうつるが、やはりこれは人を助けた時についたものだ。
痛々しい古傷も人の為についたものだと思うと、更紗にとって愛しさが増すものとなる。