第9章 風柱と那田蜘蛛山
「礼は有難く受けとっておく……だが、そこまで涙堪えるくらいな泣けばいいだろォ?ここにはお前の許嫁と兄貴しかいねェんだ」
更紗の知らぬところで心の中に更紗に秘密を抱えながらも、更紗を想う粗野ながらも優しい言葉に更に瞳に涙が溢れ、それを見せまいと更紗は両手で顔を覆った。
「そんな……甘やかしてはいけません。私は……全て取りこぼしてしまったんです……これ以上、実弥さんにも杏寿郎君にも……ご迷惑は」
そう言いかけたところで更紗の頭には杏寿郎の手が置かれ、実弥には片方の頬を軽くつねられてしまった。
その状況の意味が分からず、更紗は二人に目配せして理由を問いた。
「俺も不死川も迷惑ならばはっきりと言う。君は遠慮しすぎる節がある、たまには迷惑をかけてほしいくらいだ」
「兄貴が妹を甘やかして何が悪いんだァ?泣けるときに泣いとけ」
他の柱達が今の2人を見ると心底驚くような表情だが、更紗にとっては優しい2人の今の表情が全てだ。
「ありがとう……ございます……最後に一目だけでも棗姉ちゃんに会って……話したかった。ありがとうって伝えたかったよ……」
杏寿郎には頭を撫でてもらい、実弥には温かく見守ってもらい、今だけはと甘やかせてもらい更紗はようやく前を向いて進めそうな気がした。