第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗は杏寿郎の手に引かれ実弥が腰を落ち着けている部屋に入り、その前に杏寿郎と共に腰を下ろした。
「実弥さん、昨晩の任務たくさんお力添えしていただきありがとうございました。それと……」
そこまで言いかけて更紗は胸元で手を握り辛そうに眉をひそめた。
その様子が見ているだけでも胸を締め付けるもので、実弥は思わず先を話すことを止めようとしたが、自分の意志で話すと決めてここまで来たのだ。
止めたところで話すことは明白なので、すんでのところで口をつぐみ更紗の言葉を待った。
「それと……棗姉ちゃんを看取って下さりありがとうございます。1人で看取らせてしまい心苦しい……ですが、同じ風の呼吸の使い手、しかも風柱様に看取っていただけて……な、棗姉ちゃんも嬉しかったと、思います」
やはり姉として慕っていた棗の話になると胸が痛むのだろう。
赤い瞳には涙が浮かび、言葉は途切れ途切れにしか出てこない。
(最期に一目会いたかったって言ってた……なんて伝えられる状態じゃねェな)
棗の最後の最後の言葉を伝える機会を伺っていたが、もしかするとこれは墓場まで持って行かないといけないかもしれない。