第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗にそう言われても抱きしめ続ける表情は実弥からは見えないが、その背中からは嫌と言うほど、胸の中におさまっている少女を全身全霊で慈しみ、愛しくて仕方がないという想いが伝わるものだ。
「杏寿郎君?」
いつもなら人がいる時はすぐに解放してくれる事が多いが、今日に限っては返事すらなく更紗は心配になる。
そんな心配気な問いかけに杏寿郎はようやく反応し、一度強く抱きしめてからその体を解放してやる。
「すまない、不謹慎かもしれないがこうして更紗の体温を感じれて安心していたのだ」
そこで更紗は今朝杏寿郎が帰ってきてから気遣わせてばかりで、まともに話していなかったことに気が付いた。
「ありがとうございます。遅くなりましたが……杏寿郎君、お帰りなさい。無事に戻られて心から安心しました。私も実弥さんのお力添えをいただいて、無事に任務を完遂してまいりました」
杏寿郎になぐさめてもらい、体を休めて心の内が少し落ち着いたのか、ほぼいつもと変わらないフワッとした笑顔を更紗が見せると、杏寿郎も目を細めて柔らかな笑顔になる。
「お帰り、更紗。不死川に聞いたが、元下弦の鬼を滅したようだな。師範として誇らしく思う。さぁ、不死川に会いに来たのだろう?邪魔させてもらおう」