第3章 出会い
「更紗??」
杏寿郎に呼ばれ、幼子のような可愛らしい笑顔で振り向く。
まるで家族に向けるような今まで見たことの無い顔だ。
「ご当主様は、私のお父さんと同じ目をしてこちらを見てくれていました。すごく……すごく優しい目です」
涙こそ流していないが、先程の幼子のような笑顔の中に深い悲しみを滲ませている。
思わず杏寿郎も悲しくなるような……そんな胸を締め付けられる笑顔だ。
槇寿郎もまた、居心地悪そうに身動ぎをした。
「俺は……そなたの父親とは違う。もう出ていってくれないか、鍛錬でも何でも好きにするといい……どうでもいい」
その槇寿郎の言葉にハッとして、更紗は頭を下げる。
杏寿郎が立ち上がると更紗も立ち上がり、部屋を出て行く。
部屋から少し歩き、槇寿郎に声が聞こえないところまで来て杏寿郎が壁に手を当ててしなだれかかった。
「更紗、心臓に悪い」
「す、すみません……でもご当主様のお顔を見て朧気だったお父さんの顔を思い出せたので……つい……」
杏寿郎の言動に今度は更紗がシュンと項垂れた。
「いや、構わない!更紗が父上の顔を思い出せてよかった!俺も父上があれほど話す姿を、久方ぶりに見られて驚いたが嬉しかった!」