第3章 出会い
しばらくの沈黙が3人の間に流れる。
いつもならば、この沈黙で杏寿郎が部屋から出ていくが、今日は出て行かない。
それもこれも杏寿郎が更紗を連れて出て行こうと、袖をチョイチョイ引っ張っているにもかかわらず、更紗が立ち上がろうとしないからである。
(更紗ーー!!お願いだから立ち上がってくれ!父上が今までにないほどこちらを見ているぞ!)
そんな杏寿郎の心の声なんて何処吹く風か、更紗はいまだに立ち上がらないばかりか槇寿郎に向かって言葉を紡ぐ。
「ご当主様を一目見て理解しました。ご当主様と奥方様に育ててもらったからこそ、杏寿郎さんも千寿郎さんもお優しいのですね」
「「え?」」
杏寿郎と槇寿郎の声が重なる。
2人ともさすが親子と言うべきか、少し上ずっていたのも一緒だ。
「何を言って……?」
槇寿郎がぼそぼそと呟くと体ごと動かし、2人に向き合う。
その目には怒りもあるが、戸惑いの色が濃く見える。
(更紗ーー!父上が怒っているぞ!?どうする、無理やりにでも引っ張っていくか……?)
杏寿郎が決めかねている事も構わず、更紗は返事を返す。
「だって、私のお父さんと同じ目をしています」
と。