第9章 風柱と那田蜘蛛山
「不死川、邪魔して構わないか?」
心身共に疲れ果て意識を手放した更紗を部屋の布団で寝かせ、杏寿郎は現在、実弥の部屋の前にいる。
「入れよ」
短い返事を確認して杏寿郎が障子を開けて部屋の中に入っていくと、そこには隊服を脱ぎ、浴衣姿で胡坐をかいて床に腰を下ろす実弥の姿があった。
その前に杏寿郎も腰を下ろし、実弥と向かい合う。
「こうして不死川と向き合って2人で話す時が来るとは思わなんだ」
「俺も思ってなかったなァ……んで、宇髄風に言うてめぇの姫はどうなんだァ?落ち着いたのかよ?」
更紗が図らずしも2人の縁を結び、こうしてここに向かい合って座っている。
いつもは軽口を叩くことのない実弥に杏寿郎は僅かに笑みをたたえ、その質問に答えた。
「俺のお姫様は疲れ果てて眠ってしまったのでな、部屋で休ませている……今日は手間をかけさせたな。あの子の心は君に救われた、感謝している」
頭を下げる杏寿郎に実弥は驚き唇を引き結ぶも、悔し気に眉を寄せた。
「俺は何も救えてねぇよ。あの棗って剣士も救えなかったしなァ……こんな事は珍しくねぇが、あの泣き顔はなんか堪える」