第9章 風柱と那田蜘蛛山
杏寿郎は僅かに握られた更紗の手を開かせ、血で染まった手のひらに自らの手のひらを重ね合わせる。
「?!杏寿郎君、手が汚れてしまいます!」
慌てて手を引っ込めようとするも、杏寿郎は重ね合わせた手に少し力を入れて傷が痛まない程度に握り穏やかな笑みを浮かべる。
「汚れない。更紗が自分以外の誰かを想い流した血だ。尊敬し、尊重すべきものだ」
そうして握った手を自らの体の方へ引き、胸元で更紗を強く抱きしめる。
「今は任務ではない、桐島少女を共に偲ぼう。不死川には後ほど礼を言えばいい。謝罪より感謝の方がすんなり受けてくれる」
「は……い。私、棗姉ちゃんが大好き……もうこんな思いしたくない。たくさんの人を助けられるように……守れるように頑張るから、待ってて……杏寿郎君」
華奢で鬼殺隊に入って僅か数か月の少女の、大きな決意に杏寿郎は笑うことなく受け止めた。
「あぁ、待っている。そばで待っている」
そのあと、更紗は杏寿郎の胸の中で静かに涙を流し続け、いつの間にか意識を手放していた。
抱き上げられ心地の良い浮遊感を感じるも、そのままそれに身を任せた。