第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗は自分の手のひらを見つめ、ギュッと爪が食い込むほど握りしめた。
「後悔しても棗姉ちゃんは生き返らないし、実弥さんが看取ってくださった事実も変わりません……でも、頭で理解出来ても気持ちが追い付かなくて……強くならなくちゃいけないのに、全然皆さんに追いつけなくて……情けないです」
どんどん拳を握る力が強くなり、その隙間から血が滲んでくる。
だが更紗にとってその痛みは、心の痛みを落ち着かせる鎮痛薬の代わりを果たしていた。
杏寿郎もそれを理解しているがそのまま放っておくわけにもいかず、更紗の向かいへ体を移動させその手を両手で包み込む。
「もういいんだ、自分の体を傷つけなくていい」
自分より遥かに多く悲しみ、悩み、後悔し、それでも立ち止まらず強くあるために鍛錬を重ね多くの人の命を守ってきた大きな手は、更紗にとって力強く頼もしく感じた。
そんな手の温かさに触れ、ほんの少し握る力を緩め炎のような綺麗な瞳を見つめる。
「理解しているならば十分だ。そこで立ち止まって歩みと止めなければ強くなれる。この先、同じような思いをすることがあるかもしれないが、君は一人じゃない。俺がいる、共に悩み悲しみ、そして成長しよう」