第9章 風柱と那田蜘蛛山
2人は向かい合って座っていたが、更紗が涙と嗚咽を堪え震えるので杏寿郎は隣りに移動して肩を抱き寄せる。
任務から帰って、これ程までに憔悴しきる様子からその要因の答えを杏寿郎は導き出していた。
「桐島少女が……亡くなったのか?」
更紗は大きく肩を揺らし、それが正解だと言わずとも体現させた。
「ど……して?」
「不死川は元気で大きなケガも見当たらなかった。そうなるとそれ以外の要因で君がこれほどまで落ち込むとすれば、桐島少女の存在しか考えつかんからな……さぞかし辛かっただろう、もう我慢しなくていい」
落ち着いた優しい声、肩に回された腕から伝わる温かな体温を肌に感じ、ようやく更紗は緊張の糸が解け瞳から大粒の涙をこぼした。
「棗姉ちゃん、自分の傷が痛んだはずなのに、約束守れなくてごめんねって私に言葉を残してくれたんです……実弥さんも……間に合わなくて悪かったって……私の方がたくさんごめんなさいって言わなきゃいけないのに……」
「うん」
「今度棗姉ちゃんと任務の時は助けたかったんです……実弥さんに最期を看取らせてしまう前に、その場に行きたかったんです……何もかも間に合わなくて、全て手のひらから零れ落ちてしまったんです」