第9章 風柱と那田蜘蛛山

あまりの2人の甘々ぶりに実弥の顔に笑顔がこぼれる。

「そりゃあ別れ際にあんな事するだけあるわなァ！見てるだけで胸焼けしそうだわ！」

更紗が顔を赤くして俯いてしまった所へ、廊下から規則正しくやや早足気味の足音が近づいてきたかと思うと、勢い良く障子が開け放たれそちらに2人の意識が持っていかれた。

「戻ったぞ！更紗も不死川も元気そうで…… 更紗、何かあったのか？」

さすが人一倍日々更紗を考え、見ているだけのことはある。
小さな更紗の異変を敏感に感じ取りながら、事情を聞こうと2人へ目を配らせる。

「俺から話してもいいが……自分で話すかァ？」

実弥の言葉に今まで意識的に考えないように蓋をしていた少し前の記憶が更紗の脳裏に蘇り、激しい胸の痛みを感じながらも小さく頷いた。

「私が話します。お気遣い、ありがとうございます」

「そうかよォ、なら俺は部屋に戻る。2人の方が色々都合いいだろ」

そう言って実弥は杏寿郎の肩に手を置いてから部屋を後にした。