第9章 風柱と那田蜘蛛山
小刻みに体を震わせる姿に庇護欲が掻き立てられるが、この少女の心を癒すのは師範であり許嫁である杏寿郎だと理解しているので、地面へその体をそっと移動させた。
「よくやったなァ……これで棗って剣士も安心して逝ける。……その棗から言伝を頼まれたが今聞くかァ?」
思いもよらなかった実弥の言葉に、更紗は顔を隠していた腕を外した。
「ぜひ、聞かせてください。棗姉ちゃんの言伝」
「約束、守れなくてごめんね。昔も今も大好きだよ」
実弥の口から出た言葉は、まさしく言葉遣いが棗のもので更紗の胸と目の奥を激しく刺激した。
(泣くわけにはいきません……まだ全てが終わったわけではないのですから)
そう自分に強く言い聞かせ、悲しみにひきつる顔に笑顔を無理矢理に強制させた。
「棗姉ちゃんは同郷の人だったんです。それに風の呼吸の使い手で、もしかすると実弥さんと気が合ったかもしれませんね。そして一度杏寿郎君とお顔を合わせたこともありまして、祝言を挙げる際には参列してくれるって言ってくれました。それから……」
まるで気を紛らわせるかのような矢継ぎ早な話し方に更紗の心の傷が伺える。
「もういい、無理に話すなァ。棗の体はお館様が管理してくださってる墓地に埋葬してもらう。あとは隠に任せて、煉獄んとこまで送ってってやるから、そこで存分に偲んでやれ」