第3章 出会い
家が広いため、しばらく歩いた後、杏寿郎は1つの部屋の前で立ち止まる。
どうやらここが当主である杏寿郎の父親、槇寿郎の部屋らしい。
杏寿郎は少し緊張しているのか軽く深呼吸して、更紗に困ったような笑顔を向けるとすぐに部屋を仕切っている襖に手を伸ばした。
「父上、失礼致します」
だが、中からの返事はない。
それにも慣れているようで、そのまま襖をゆっくり開くと、縁側に背中を丸め胡座をかいて座っている壮年の男が目に入った。
その背後に2人は正座で座り、後ろ姿を眺める。
(この方が杏寿郎さんと千寿郎さんのお父上……)
2人によく似た髪は力なく風にただ吹かれて揺れている。
「父上、こちらの少女が先立ってお知らせしていました、月神更紗です。今日からこの家に住み込みで鬼殺隊剣士になるべく、私が指導し鍛錬を行います」
その言葉に少し反応し、首だけを動かし杏寿郎と更紗を見やる。
ほんの僅かに目を見張るが、それだけ。
「ご当主様、初めまして、月神更紗と申します。鍛錬以外は家事などもさせていただきたいと思っています。至らない事も多くあると思いますが、ご迷惑をかけないように努力しますので、どうぞよろしくお願いします」