第9章 風柱と那田蜘蛛山
鬼の言葉は更紗の胸を深く抉り、意思とは関係なく涙を流させようとする。
棗の想い、存在をまるで書き損じた紙を丸め捨てるかの如く軽く簡単に踏みにじるような発言は、更紗の脳内を怒りで満たすのに十分だった。
「元人間の癖に……どうしてそうも人の尊厳ごと否定するの?!人だった頃は他の誰かを慈しみ、愛していたはずなのに!!人が人を守ろうとする事は尊い、その行為を馬鹿にしないで!!」
「俺からすれば人間はいたぶり遊ぶ玩具で餌に過ぎないからなぁ。お前はどんな声で啼く?聞きたいなぁ……!血鬼術 六花猛雪!!」
鬼が血鬼術を発動させると、更紗の眼前が吹雪で覆われる。
これに触れてしまえば体が凍り付き、その部分から壊死してしまうのだろう。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎ぉぉ!!」
杏寿郎のそれよりも小さく控えめに映るが威力は相当なもので、多くの剣士を苦しめ命を奪った吹雪は後方……鬼の方へ吹き飛ばされ霧散していく。
「お前いいな、喰ったらさぞかし美味なのだろうなぁ!啼いて喚きながら抵抗しろ!冷えた皮膚から溢れる熱い血肉と女の啼き声が俺の……好物だ!!」
鬼が上から下へ腕を振り下ろすと、剣士から説明されていた雹が更紗に向かって高速で降り注いでくる。
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」