第9章 風柱と那田蜘蛛山
実弥の流血が治まりつつある今、鬼は上体を起こすまでに回復していた。
爪に牙に付着している血が目に入る度、更紗には今まで感じた事がないほどの嫌悪感が頭の中を支配していく。
「何か……言い残すことはありますか?今なら懺悔の1つくらいなら聞いてあげても構いませんが」
鬼に刃を向け隙を見せぬまま鬼に問うも、鬼は厭らしく醜く血の着いた口元を歪めるばかりだ。
「言い残す事なぁ、あの盾の女が可笑しかったくらいだ。子供さえ守らなければ腕が腐り落ちる事もなかったし、髪を引き抜かれることも無かった!ハハッ!!笑えたぞ、子供を他の仲間に渡すためだけに俺の攻撃をもろにくらったんだ!あぁ……あと腹の肉は美味かったなぁ、腕も喰っておけばよかったと後悔はしてる」
鬼の言葉、一言一句全てに体が反射的に嫌悪と侮蔑をはらんでいく。
体はそれに反応し、一気に体温を上昇させ全身が高熱に包まれる。
「もう口を開かないでください。あなたの言葉は私を……不快にさせるだけ!」
更紗は足が地面にめり込むほど踏みしめ一気に加速して鬼の首を狙いに行くも、回復した鬼は簡単には斬らせてくれはしない。
「ならもっと言ってやろうか?腕が腐り落ちた時の苦痛に歪む表情、腹を食い破られた時の悲鳴!それでも足掻き続けようとする言動……その全てが滑稽で惨めだったよ!」