第9章 風柱と那田蜘蛛山
実弥が手を伸ばし更紗の頬の涙を拭ってやると、悲しみに染まった瞳が実弥をうつす。
「泣くなとは言わねェ。だが今は俺達が鬼殺隊って事を忘れんな。どんな時も立ち上がって刃を振るわなきゃなんねぇんだァ」
その言葉に更紗は歯を食いしばり、唇を真一文字に引き結ぶ。
「鬼殺隊の全員が同じような悲しみに抗って闘ってんだ。気ィ引き締めろォ!」
「「はい!」」
と、ようやく今しがた到着したもう1人の剣士と返事が重なる。
もちろん剣士は反射的に返事をしただけで、自分で返事をしながらも何に対してなのかは分かってない。
「おっせぇ到着だなァ、おい!任務終わったら俺が鍛えてやろうかァ?!」
と剣士への怒号が鳴り止まぬ中、更紗は実弥の血の匂いで酩酊状態に陥りつつも態勢を整え始めた鬼を見据える。
その瞳、その華奢な後ろ姿からは更紗とは思えないほどの怒りや悲しみが滲み出ている。
「実弥……不死川様、あの鬼は私に倒させてくださいませんか?」
「……出来んのかァ?1人でよォ」
同じ階級である棗が仲間と共に闘っても勝てなかった鬼に更紗1人で勝つ事は極めて難しいが、実弥へと振り返りその目を見つめる瞳からは頑固にも意思を貫こうとする色が濃く出ていた。