第9章 風柱と那田蜘蛛山
だが無情にもその命の灯火は徐々に失われていく。
「更紗ちゃん……最期に一目……会いたかったなぁ……」
その言葉を最後に瞼は閉じられ、体は一気に力を失って重みを増した。
「クソが……クソがァァ!!」
実弥の慟哭が辺りに響き渡ると同時に、1つの人影が暗闇から飛び出してくる。
「実弥さん!何か……ーー?!棗姉ちゃん!!」
更紗はすぐさま実弥に駆け寄り、その腕に抱かれた棗の体に縋り付く。
「やだ!!棗姉ちゃん!!そんな……目を開けてよ!まだ私、何も今までのお礼出来てない……実弥さん!気を失ってるだけですよね?!」
涙を瞳いっぱいに溜める更紗に、実弥は胸を引きちぎられるような痛みを感じながらも首を左右に振った。
「今ァ息を引き取った。悪ィ……間に合わなかった」
その言葉が合図だったかのように、更紗の頬を涙が伝った。
「そんな……だって……まだこんなに温かいのに……笑顔なのに……」
更紗はそっと棗の頬に触れ、滑らかな肌を撫でる。
今にもくすぐったそうに身をよじられせて、瞼を開けて笑顔を向けてきそうな程、その顔は穏やかだった。