第9章 風柱と那田蜘蛛山
それから僅かな時間の後、実弥は会敵していた。
報告にあった通り、吹雪と雹を主な攻撃手段として使用してくる。
だが、実弥にとってはそこまで脅威な血鬼術ではない。
それでも鬼を全力で攻撃出来ない理由……それはまるで盾にするかのように右腕の無くなった剣士を片手で自身の前にぶら下げているからだ。
「相変わらず鬼は醜いなァ!!やる事がいつも汚ェ……虫唾が走るんだよォォ!!」
実弥は1度鬼と距離をとり、日輪刀の刃で自身の腕を切り裂いた。
「血迷ったか?仲間が死にかけてるのがそんなに悲しいか?苦しむ姿をみたくないなら、いま…す、ぐ……」
「デカくても俺の血の匂いは堪えるだろォ!」
ほんの数秒、血の匂いが鬼に到達すると三半規管が揺らされたようにその巨軀が大きく揺れ、思わずぶら下げていた剣士を手から離し地面に膝を着く。
実弥はその体が落ちきる前に一瞬で詰め寄って抱きとめ、そのまま後ろへ跳躍する。
腕に抱きとめられたのは、まだ成人していない少女だ。
顎で切り揃えられた綺麗な黒髪は、無理やり引き抜かれたのか右耳の上あたりからなくなっている。
「おい!生きてるならしっかり気ィ保て!死ぬんじゃねェ!」