第9章 風柱と那田蜘蛛山

しかし実弥はもちろん1人で行くつもりは毛頭ない。

女がてら、特殊な力を身に宿してるとはいえ杏寿郎の継子として日々厳しい鍛錬と、過酷な数の任務をこなしてもなお平気な顔をしてこの場に立っている更紗がいるのだ。

主力として闘うには力不足かもしれないが、補佐としては十分な働きをするだろう。

「そいつを連れてく。噂ぐらい聞いたことあるだろォ？煉獄の継子だ。それより、出発前に先にどのあたりかそこがどんな地形か……分かるならここで言っとけェ」

実弥と少女のやり取りを更紗がその場から様子を伺っていると、いきなり後ろから強い力で肩を掴まれた。
その力の強さは明らかに好意的なものではない。

「お前いいよな。柱に気に入られればどんな任務にも柱がついてきてくれて、楽して階級上がってくもんな」

実弥に聞こえない程度の声で、妬みを一心に受ける更紗は複雑な心境だが、柱が常にいる理由をここで話すわけにはいかず、また否定しようと肯定しようと新たな反感を買いそうな気がしてならず、口をつぐむことを選択した。

「なんとか言えよ。お前がのうのうと守られてる間、俺らみたいな一般の剣士は次々死んでんだ。それについて何も思わ……」

「おォい、全部聞こえてるぞ。そこまで更紗の現状が不満なら連れて行ってやる、拒否権はねぇからなァ」