第9章 風柱と那田蜘蛛山
その剣士は無意識に自身の腕を手のひらで押さえて悲しげに平地を見遣る。
隊服から覗く手には腕から流れ出たと思われる血がこびり付いており、今は止まっているようだが血の跡を見る限り軽傷ではないだろう。
そんな剣士が自分の怪我の痛みよりも胸に痛みを覚えている要因……平地のどこかに横たわる、共に闘って散っていった仲間の事だろう。
「お前はもう下がっとけ。鬼の居場所が分かって怪我してねェ奴、前出ろ」
その声に反応して出てきたのは、たったの1人の少女の剣士だった。
その少女さえ、顔や手の甲に小さな擦過傷がいたるところについていた。
更紗は思わず手を伸ばし足を動かしかけるも、もう一方の手でその手を握り動きを止める。
「それでいい、下手に人前で使うんじゃねェ」
実弥は更紗のみに聞こえる小声で呟くと、前に歩み出た剣士へ歩を進める。
「近くまで案内しろ。その後はここに戻って怪我人と待機、分かったなァ?」
「はい!ですが不死川様、お1人で行かれるのですか?」
この状況を見ればそう受け取るだろう。
炎柱と蟲柱には継子がいると耳にしているが、実弥が継子をとっているという話は全く入ってこないし、それが真実なのだから。