第9章 風柱と那田蜘蛛山
準備を完了させ3人で出発したのはいいものの、別れ際に杏寿郎が更紗を抱きしめ口付けをしようとするもので、実弥はその腕から更紗を引っ張り出し、ようやく互いに任務地へと足を進められる次第となった。
更紗はもちろん、実弥が持ってきてくれた隠達からの贈り物である外套をしっかり着込んで実弥の隣りを静かに歩いている。
だが揺れる髪から見え隠れする顔は、任務地が近付くにつれてどんどん表情が固くなっていく。
「緊張してんのかァ?」
「え?あ、はい……柱である実弥さんが救援要請される程の任務なので少し……緊張しています」
今日の任務は、先に赴いた剣士が数名行方不明となり、一般人にも被害が出始めたので柱である実弥が呼ばれたのだ。
先行して向かっている剣士達も苦戦を強いられている為、人手を補うために更紗もこうして招集された。
「まぁ……あんま緊張し過ぎるのも良くねェ。お前も階級が上がればこんな任務増えんだから、今のうちに慣れとけ。あと現地は恐らく鬼に荒らせれてっから、覚悟もしとけ」
更紗は表情を恐怖に強ばらせるも、1度深呼吸をするとそれはなりをひそませた。
そんな更紗の頭に軽くポンと手を置き、任務前とは思えない程の穏やかな笑顔で言葉をかける。
「度胸の据わった女は嫌いじゃねェ。期待してんぞ」