第9章 風柱と那田蜘蛛山
「私が……ですか?」
「飯分けてもらっただの、いつも気遣ってくれただの言ってたなァ。後……チッ、あのゲスメガネがとんでもねェ隊服送ったことに対する謝罪だとよ」
前半は穏やかな表情だったのにも関わらず、裁縫係の前田の件に触れたとたん鬼の形相と化した。
前科のある前田が懲りずにそういったことを続けていたのが、心底気に食わないのだろう。
「あの鬼畜か!だが心配することないぞ、不死川。更紗には断じて1人の時に近づいてはならんと言ってある!」
「そうかよ。でもまァ、もし何かされたら俺に言いに来い。もう一回ちびらせてやるからよォ」
更紗に向けられているのは笑顔のはずなのに、前田に対する黒い感情が漏れ出ている実弥と、その意見に頷き同意している杏寿郎に更紗は笑顔を向ける。
「前田さんも謝罪してくださいましたし、私はもう気にしていません。何より、私は隠の方々のお気持ちが嬉しいです。あんな些細なことに喜んでくださっていたなんて」
フニャッと笑う更紗に2人は完全に毒気を抜かれ、怒りなんてどこかへ飛んで行ってしまった。
そうして更紗は実弥に手渡された布を広げて感嘆のため息を漏らした。