第9章 風柱と那田蜘蛛山
その消えていく命が、ここにいる2人でもおかしくないのだ。
「あぁ。互いに無事に戻りご両親にお会いしなくてはいけないからな。それを糧に共に任務を完遂しよう!」
少し湿っぽくなってしまった空気を一新するかのように杏寿郎がいつも通りの張りのある声を上げると、それにつられるように更紗も背筋が伸びシャキッとなった。
「はい!では私はそろそろ準備を行いますが、杏寿郎君はどうされますか?一緒に」
「失礼いたします!」
杏寿郎も準備を行うか聞こうとしたが、障子の向こうからこの家のものと思われる人の焦ったような声がそれを遮った。
普段、藤の花の家紋の家ではこのような事がないので2人は顔を見合わせて首をかしげるも、そのままにするわけにもいかず、立ち上がりかけていた更紗が対応することにした。
「何かございましたか?」
更紗が障子を開けると、申し訳なさそうながらも慌てているこの家の者が廊下に正座をしていた。
「お話し中に申し訳ございません。ですが、つい先ほど風柱様がいらっしゃいまして……」
思ってもみなかった内容に更紗は目を見開き、後ろに座っている杏寿郎に振り返った。