第9章 風柱と那田蜘蛛山
杏寿郎も驚き目を見張ったものの、すぐに笑顔となり立ち上がって家の者の前に跪く。
「知らせてくれたこと感謝する。家の中で不死川が待機しているならば案内してもらえるだろうか?」
穏やかなその声音に家の者も幾分か落ち着きを取り戻し、ホッと息をついて腰を上げた。
「こちらでございます、炎柱様、月神様」
そう促されるも、更紗はすぐには反応できず立ち尽くしてしまっている。
(私は……いつの日か杏寿郎君のように、人を安心させられるような存在になれるのでしょうか……)
何も出来なかった事を恥じるように心臓が胸を激しく打ち、全身が一気に熱くなっていく。
些細な事かもしれないが、その些細な事すら出来なかった自分を責めるように更紗は唇を強く嚙んだ。
そんな更紗を見て、杏寿郎は浮かべていた笑顔を更に深くしてその頭に手のひらを軽く置き、目線を合わせるために屈みこむ。
「今のは年の功というものだ。それに君は俺にはない底知れぬ優しさを持っている。全て完璧にこなせる人間はいないのだから、恥じることは何もない……さぁ、あちらの方と不死川を待たせてはしのびない。行くぞ」