第9章 風柱と那田蜘蛛山
杏寿郎を見上げる顔はまだ僅かにしょんぼりしているが、少し持ち直したようで笑顔を覗かせていた。
「ありがとうございます。もっとお勉強しなくてはいけませんね……あの、よろしくお願いいたします」
顔を下げられないので瞼を少し伏せさせて願うが、わざわざ改めて教えを乞う願いではない。
しかも杏寿郎が前に接吻すら初めてだと言っていたことは、これまでの更紗への杏寿郎の言動から更紗の脳内から消されてしまっている。
自業自得なのでどうにかするしかない。
「ふむ……俺も知識としてあるだけで経験がある訳ではないからな!だが知っていることは教える!分からぬ事は共に探っていけばよいだろう!」
……どうやら杏寿郎にとって自身に経験がないことは問題ないらしい。
さすが常に前向きな炎柱、煉獄杏寿郎らしい返答だ。
そして誰よりも知識の乏しく素直な更紗は、そんな杏寿郎の言葉を嬉しそうに受けている。
「はい!2人とも初めてなのは特別な感じがしますね!」
なんて言って2人で微笑み合っているのだから、天元に似合いだとからかわれるのだろう。
「それはそうと、更紗も今日の夜から任務があるのだろう?確か不死川と共に現地へ向かうと言っていなかったか?」