第9章 風柱と那田蜘蛛山
困ったような笑顔、声音から杏寿郎の胸中を察したのだろう。
改めて杏寿郎は更紗には敵わないと心から思ったと同時に、反対に慰められた事を恥じた。
「そうだな、笑う門には福来るという諺もある程だ。君が幸せでいてくれるならば、君の憂いも全て包み込み癒せるよう笑っていよう!だからもう一度、愛してると言ってくれないか?」
杏寿郎は自分の耳元に更紗の顔が来るように抱き寄せ、願った言葉が更紗の口から零れるのを待つ。
それを更紗も分かっているのだろう、僅かに恥ずかしそうに身をよじらせるも、杏寿郎の鍛えられた頼もしい背を細い腕で包み込んで笑顔ではっきりと伝える。
「杏寿郎君、大好きだよ。誰よりも愛しています」
2つの言葉遣いで杏寿郎の鼓膜が甘く優しく刺激され、あと2日で両親に挨拶出来るというのに、無自覚の更紗の言葉によって違う意味で苦しめられてしまった。
「今のは反則だ。欲情を激しく掻き立てられたのだが……どうしたものか……」
抱きすくめる力を強めてみるも、1度昂ってしまってはなかなかおさまってはくれない。
そんな悩める杏寿郎に更紗からとんでもない提案が飛んでくる。
「あの……杏寿郎君の決意を崩さずに、私がそれを解消する方法はありますか?」