第9章 風柱と那田蜘蛛山
再度木刀を振り上げたところで杏寿郎に名前を呼ばれそのままの体勢で振り返ると、金と赫が視界の端を掠め、いきなり更紗の体がフワリと僅かに地面から浮いた。
「どうされましたか?!何か大変な事でも起きましたか?!」
言わずもがな杏寿郎が凄い勢いで走り寄ってきて更紗を抱き上げたのだが、顔は上気し大変な事でもこの短時間で喜ばしい事が起きたのだとわかる。
「ご両親に会えるぞ!いくつか条件はあるが、君のご両親に会わせて貰える事になった!」
「え……それは私もご一緒して……構わないのですか?」
振り上げたままだった木刀は更紗の手から滑り落ち、瞳に涙を滲ませながら杏寿郎の首元に腕を回して確認すると、杏寿郎は肯定するように首を縦に振った。
「そうだ!君も一緒にだ!転々とする生活が始まってから、お館様へ確認を取っていた。こちらからご両親の元へ向かうのではなく、僅かな時間だけ、特定の藤の花の家紋の家にお呼びするのはどうかって。その返事を先程の鴉が伝えに来てくれたのだ!」
杏寿郎は更紗を地面に下ろし顔を見ると、信じられないと言うように目を見開き瞳いっぱいに涙を浮かべていた。