第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗はギュッと杏寿郎の手を握り、小さく頷く。
「後悔は絶対にしません。ですが……少し緊張します」
この場に似合わぬ真剣な表情に杏寿郎の顔に思わず笑みがこぼれて、綺麗な髪の流れる頭を撫でる。
(流石にここまで初心だと……手を出すのは気が引けるな)
そう心の中で思いながら、頭を撫でていた手で自分の手を握っている更紗の片方の手をそっと掴み、その手に軽く唇を落とす。
「俺は君を大切にしたい。更紗と婚姻関係を結べたその時まで我慢する。だから、今はこのまま抱きしめさせてくれると嬉しい」
「変な事を言ってすみませんでした。でも、そう言っていただけて嬉しいです」
杏寿郎の握っている手に僅かに力を入れ、頬を赤く染めて嬉しそうに目を細める。
「謝ることではない。気持ちはすごく嬉しいのだ、ありがとう」
笑顔で手を握る更紗を胸におさめ、しばらくの間2人で束の間の一時を過ごした。