第9章 風柱と那田蜘蛛山
「そのような顔をされたら、もっと先を望みたくなる」
「そんな顔と言われましても……これ以上先は……あっ!」
深い口づけに気を取られていた更紗は帯を滑る手の存在を忘れていたが、杏寿郎は忘れることなく滑らせ続け結び目に到達させると、蝶々結びの垂れている部分をゆっくり引っ張り帯を解く。
パサリと帯が床に落ち、襟元もそれと同時にはだけ胸の膨らみの谷間が杏寿郎の目に映ると、そっと片手を滑り込ませて背中に回し、更紗を逃がさないようもう片方の手で肩を抱き寄せた。
「杏、寿郎君……手を……」
恥ずかしそうに襟元を正そうとする更紗が瞳を潤ませながら杏寿郎を見つめるものだから、頭の中が熱を帯びたようにクラクラする。
「仕置きを名目にこのまま熱に浮かされても罰は当たらないだろうか?」
杏寿郎の誰にとも定まっていない問いかけに、更紗はその愛おしい人の胸にギュッとしがみつき、首元にフワリと唇を落とす。