第9章 風柱と那田蜘蛛山
「全く減らしていませんよ?私はお化粧もしませんし、着替えも今の生活ですと多くは必要ありません」
母が亡くなってから男だけの環境で生きてきた杏寿郎だが、同じ年の頃の蜜璃やしのぶが薄くではあるが化粧をしている事を知っているので、ふと疑問に思った。
「化粧に興味はないのか?更紗は化粧をせずとも愛らしいから、俺は気にならないが」
そう言って更紗の唇に親指を当てそっと撫でる。
「あぁ、そう言えば仕置きがまだ済んでいなかったな」
思わず更紗がどきりとするような妖艶な笑みを杏寿郎が浮かべるもので、体が硬直し全身が真夏の太陽の下にいるように熱くなっていく。
「あの……その仕置きというのは鍛錬の厳しさが増されると思っていたのですが」
更紗は杏寿郎から顔を背けようとするも、しっかり指で固定されているのでそれは叶わずじまいに終わる。
それにより更に顔を赤くする更紗に、杏寿郎は笑みを深めて顔を近付ける。
「それもいいかもしれんが、君の希望通りだと仕置きにならんだろう……知っていると思うが、浴衣はこの帯を取れば簡単にはだけてしまう」
杏寿郎は片手で更紗の後頭部を固定し、もう片方の手で帯に触れながら浴衣との隙間に指を入れ結び目に進ませる。