第8章 お引越しとお宅訪問
その自分達の姿が可笑しくて、後ろを着いてくる更紗に見えないように杏寿郎は笑みを浮かべる。
結局その図が解消されぬまま天元の家に到着し、玄関の戸の前で立ち尽くしてしまった。
(このまま入って問題ないのだろうか……年頃の女子が男に泣き顔を見られるのは憚られるのでは……)
そう悩んでいると、玄関の引き戸が静かに開き天元が姿を現した。
更紗もそれに気付いているだろうが、特に拒否反応を示していないので問題ないのだろう。
泣きじゃくる更紗と笑顔を噛み殺しているような杏寿郎の表情を見遣り、天元はニカッと笑って2人を玄関の中へ促した。
身長の高い天元は更紗と視線が合うようにかがみ、走りもがいた為に乱れきった頭の上に手をポンと置く。
更紗も目の前に天元の気配を感じ視線を上げて、優しげに目じりの下がった瞳を見つめる。
「お帰り、姫さん。煉獄はもちろん、俺も嫁達も姫さんの事を迷惑なんて思ってねぇよ。むしろ柱としては鬼舞辻に近付けて派手に喜ばしい事だ。だから、あんま自分ばっかり責めんな。んで、これで顔拭いとけ、べっぴんが派手に台無しだ」
わざわざ天元は泣いて帰ってくると思われる更紗の為に用意していたであろう手拭いを差し出すと、更紗は受け取り顔をそれに埋めて涙を拭くも、更に涙の量を増やしてしまった。