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月夜の軌跡【鬼滅の刃】

第8章 お引越しとお宅訪問


「今生の別れでもない。先程も言ったが隣町に家を構えるだけだ、日が暮れる前にそこに戻りさえすれば煉獄家に帰れる。それに君をこの場で手放したとして、俺は千寿郎の悲しむ顔と父上の怒り狂う顔の2つを拝まなくてならなくなる。それは果たして君の望む幸せな家庭だろうか?」

いつも自分に向けてくれる優しい声音に、更紗の胸が張り裂けんばかりに痛みを伴い出す。

「嫌なんです……私は家族と離れる悲しさを知っています。そんな悲しさ、皆さんに味わって欲しくないんです……」

身体的な抵抗はやめたものの、精神的な抵抗を続ける更紗に杏寿郎は笑顔を向けて頭を撫でてやる。

「君の別れ方は確かに辛かっただろう。だが世間では祝言を挙げると女性は生まれ育った家を出る事が多いと聞く。それは悲しい別れではなく、新しい門出を祝う別れだ。俺達も俺達の取り巻く環境が変わったから家を離れるだけ……理由を話せば父上も千寿郎も惜しみこそすれ、悲しんだりはしない。むしろ更紗の命に関わると知れば、お前も一緒に早く出て行けと言われるぞ」

千寿郎はともかく、槇寿郎は間違いなくそう言って杏寿郎を家から叩き出しかねない。
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