第8章 お引越しとお宅訪問
「こんな夜更けにどこに行くつもりだ?」
更紗の中でここに来るはずのない杏寿郎は日輪刀を腰の鞘に戻し、更紗の手を掴もうと歩み寄り手を伸ばすも、それに合わせて更紗の体も後退る。
「どうして……ここに?」
「それは今は問題ではない。俺の質問に答えるんだ」
いつもより低い声、鋭い視線に更紗は身体をびくつかせながらカラカラにかわいた喉から必死に言葉を捻り出す。
「目的地は……ありません……すみません!」
そう言って走り出そうと踵を返し地面を蹴るが、そう簡単に炎柱から距離をとることは出来ずすぐに手首を掴まれてしまった。
「離してください!私は……!」
掴まれた手を振り払おうとするも、杏寿郎の手が離れる気配は微塵も感じられない。
「私は……何だ?」
「……ーー!!私はそばにいれない!迷惑かけたくない……死なせたくないの!」
自分の口調がいつもと違う事に気付いているが、それを気に留める余裕は全くない。
「誰が誰に迷惑をかける?誰が死ぬと決まった?」
いつもならば杏寿郎はこのように問い詰めるような真似はしない。
怒っているのだと更紗は理解するも、こちらにも言い分があると言うように言葉を続ける。