第8章 お引越しとお宅訪問
順調に歩を進めるも、辺りはどんどん木々が多くなり恐怖に身がすくんでしまう。
「藤の花の練り香水!」
ようやく思い出しポケットを探るも見つからない。
せっかく杏寿郎が更紗の為にしのぶに特別に作ってもらったものだ。
どこにやったのか記憶を必死に手繰り寄せ、膝を地面について項垂れる。
「乾かす時に部屋に置いて、そのままでした……」
だが今更それを取りになんて戻ろうものなら、お散歩程度のお叱りでは済まない。
練り香水を取りにだけ戻りました、それでは!
なんて言った日には杏寿郎の悲しむ顔を見る事になってしまう。
「このまま行くしかないですね……でも、こんな時に限って……」
と最悪の事態は襲ってくるものだ。
鈍い光が更紗の視線を掠め、横に飛び退く。
すかさず神久夜を空に放ち腰に差してある日輪刀を鞘から引き抜き、鈍い光の方へ刃を向ける。
そこにはやはり鬼がいて、更紗を喰わんと目をギラつかせている。
「神久夜さん、遠くへ逃げて下さい!くれぐれも杏寿郎君達を呼ばないように!」
釘を刺された神久夜は上空でどうしたらいいのかわからず、そのまま旋回を続けた。
更紗はそれを確認せず、鬼の頸を斬るために体勢を整える。
「炎の呼吸 壱ノ型 不……」
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
自分の声に被せられた声、更紗よりも遥かに威力と速度がある技、綺麗な太陽のような柔らかな髪。
一瞬で目の前に現れ、鬼の頸を斬り落とした人物を目に更紗は体を硬直させる。