第8章 お引越しとお宅訪問
杏寿郎よりほんの少し早く天元宅を出た更紗は、いつもは許されていない夜道を1人で歩いている。
藤の花の香りのする練り香水を付けなくては危険だが、それに気付かぬほど憔悴していた。
だが、1度瞼をギュッと閉じた後は何かを決心したように眉を上げ、歩く速度を速める。
「更紗サン、お1人二なる必要は……」
「いえ……私の存在そのものが危険になりましたから……決心が揺るがないうちに皆さんから離れないと」
そばにいたくなってしまう……
そう言いたかったが、更紗の口から出すことは出来なかった。
勝手に別れも言わず出てきてしまったのだ、そんな都合のいい事は言えない。
……今戻り夜のお散歩に出ていたと言えば叱られるくらいで済むだろうが、それでは本当に自分は何をしたいのか分からなくなる。
「鬼殺隊の剣士として続けられなくなっても、この力を鬼殺隊の皆さんの為に使えるように研究が……ってそれではしのぶさんに迷惑がかかりますね。これからどうするか考えなくては」
鬼殺隊を離れる事は力の特性上不可能だろうが、剣士でなくなれば更紗と神久夜は共にいられない。
更紗は自分をも守る為に、そばから離そうとしていると気付き、神久夜はしょんぼりと項垂れた。
(炎柱サマ、追い掛けてキテ更紗サンを引き止めて下サイ)
神久夜の心の願いが叶うまで、あと少し。